京都の夏は暑い

 ところが、僕は一度だけ例外を見たのである。 それは京都であった。昭和十二年か十三年。京都の夏は暑いので、僕は毎日十銭握ってニュース映画館へ這入り、一日中休憩室で本を読んだりしていた。ニュース映画館はスケート場の附属で、ひどく涼しいのだ。あの頃は仕事に自信を失って、何度生きるのを止めにしようと思っ...

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乞食を三日すると忘れられない

 乞食を三日すると忘れられない、と言うけれども、淪落の世界も、もし独立|不羈《ふき》の魂を殺すことが出来るなら、これぐらい住み易く沈淪し易いところもない。いわば、着物もいらず住宅もいらず、野生の食物にも事欠かぬ南の島のようなものだ。だから僕は淪落の世界を激しく呪い、激しく憎む。不羈独立の魂を失ったら...

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生家の栄誉や富

 このような躾けの良さは、必ずしも生家の栄誉や富に関係はなかろうけれども、然しながら、生家の栄誉とか、富に対する誇りとか、顧みて怖れ怯《おび》ゆるものを持たぬ背景があるとき、凡人といえども自らかかる毅然たる態度を維持することが出来易いと僕は思う。 とはいえ、栄誉ある家門を背景にした子供達が往々生れ...

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